レーザ変位計の落とし穴
「繰り返し再現性」とは?

2024.10.09
精密性をうたうレーザ変位計。確かに、「レーザ」といえば、正確・精密のイメージがあります。そして、レーザ変位計で計測したなら間違いがないと思われがちです。しかし、意外に知られていないレーザ特有の落とし穴もあります。その一つに、ワーク(測定対象)により、繰り返し再現性が大きく変わることが挙げられます。今回は、具体例を用いて、その落とし穴を探ります。

レーザ変位計における繰り返し再現性とは?

この言葉の定義は曖昧であることが多く、概して、「再現性」とは同一の対象物を同一の方法で、誰が測定や実験を行っても同じ結果が得られることを指すとします。また、「繰り返し性」とは、再現試験を比較的短時間に特定回数繰り返したときに、同じ結果が得られることを指すとします。今回のコラムではそれらの厳密な言葉の定義を議論することを避けますが、いずれにせよ、この「繰り返し再現性」の核となる「同一の対象物」に着目します。

レーザ変位計のスペック値での繰り返し再現性とは何の指標なのか?

レーザ変位計での繰り返し再現性の指標は、測定値の誤差を指します。同じものを同じように測定しても、個々の測定データは異なります。その標準偏差を統計的に算出した値となります(表 1)。

表 1 「Smart LPS 1D」のスペック表(抜粋)

レーザ変位計のスペック値と異なる繰り返し再現性の値

現実問題として注意すべきは、それらの再現性の公表値だけでなく、注釈文です。上記(表 1)の再現性試験では、標準白色セラミックをサンプルとして使用し、繰り返し試験を行った際に得られた標準偏差であるため、測定対象が標準白色セラミックではない場合、当然、異なる再現性データが算出されることが予想されます。

ワークの光反射特性と繰り返し再現性への影響

ワークの繰り返し再現性に影響を与える主な要素としては、素材、表面構造、表面粗さがあります。いずれもワークが反射するレーザの光強度や反射プロファイルは繰り返し再現性に直接影響します。一例として、以下に代表的なワークの同一条件での繰り返し再現性の比較を示します(表 2)。

表 2 ワークの種類と繰り返し再現性(保証値ではありません)

ワーク特長
表面荒さ(低い順):アルミ < 白紙 < 白セラミック < 黒スポンジ 
表面構造:白セラミック、黒スポンジはポーラス構造あり。
反射率(高い順):アルミ > 白セラミック > 白紙 > 黒スポンジ

測定条件
シャッタースピード:5μ秒、レーザ強度:5%、移動平均:1回、W.D. 80mm 、標準偏差:連続した100サンプリングデータ使用

実際に絶対値を比較してみますと明らかです。表面が滑らかで、レーザを強く反射できるワークが良い繰り返し再現性を示しています(高い精度)。

ワークの影響を最小限にする方法

ワークの影響を小さくするための、主な手法としては、下記の3つあります。

(1) 測定される反射強度を強くする
(2) 移動平均を使う
(3) 参照用のレーザ径を大きくする

以下で実際のデータを見ながら詳しく見ていきます。

(1)測定される反射強度を強くする

レーザ強度を強くするかシャッタ速度を遅くすることで、相対的に反射強度を強くすることができます。

① レーザ強度
レーザ強度を変えながら黒スポンジの変位量を測定したときの繰り返し再現性σ値の変化を(表 3)に示します。
横軸はレーザダイオードの出力パーセント、縦軸は連続した100サンプリング時の変位量のσ値(μm)を示します。

表 3 レーザ強度と再現性

このようにある程度レーザ強度を強くすることで、繰り返し再現性を良くすることができます。

② シャッタ速度
シャッタ速度を遅くすると、センサの各ピクセルに蓄積されるシグナルが増えて、繰り返し再現性が良くなります。ただし、シャッタ速度を遅くすると、露光時間が長くなるため環境の影響を受けやすくなります。また、1ワーク当たりの測定時間も長くなり、タクトタイムに影響が出ます。

(2)移動平均を使う

移動平均を使うと測定時に平均化しながら測定しているため、測定値のバラツキが小さくなります。つまり、繰り返し再現性を計算するための母数を増やすことと同様な効果があります。しかし、ワーク1点当たりの測定時間は“繰り返し平均回数 x サンプリング時間”よりも長くする必要があるためタクトタイムが長くなる場合があります。

(3)照射レーザの径を大きくする

レーザ径を大きくすると参照するワークの面積が増えるため、大きな面積で平均化した反射を得ることができます。レーザ径と表面粗さのイメージを以下に示します。

このように、レーザ径を大きくすることで、ワークの微小構造を平均化しその影響を受けにくくすることで、繰り返し再現性が向上することがわかっています。

先に測定した4種類のワークに対してレーザ径を変えて測定した場合の繰り返し再現性の例を(表4)に示します。

表 4 レーザ形状(径)の違いによる再現性(保証値ではありません)。

測定条件:シャッタースピード:5μ秒、レーザ強度:5%、移動平均:1回、
W.D. 80mm 、標準偏差:連続した100サンプリングデータ使用

一般的に表面粗さが大きい場合、または、表面構造による凹凸等が大きい場合、レーザ径を大きくした方が繰り返し再現性は良くなる傾向にあります。ただし、レーザ径の影響はワークの状況に応じてその効果が現れにくいことがあります。表3のように、例えば、アルミ板(ディヒューズ反射率80%板)や、黒スポンジでは明らかに繰り返し再現性が良くなっています。これに対して、白セラミックの場合、ポーラス構造を持っているにも関わらず繰り返し再現性が悪くなっています。これは他のワークに比べ白セラミックの散乱能が高く、散乱した光を十分取り込めない場合があると考えられます。

しかしセラミックの種類、ポーラス形状などワークの状態によるため、すべての白セラミックがこのようになるわけではありません。また、レーザ径に比べて細かな凹凸しかない白紙ではその影響はほとんど見られません。

このように、精度および繰り返し再現性の高い情報を得るためには①~③の中から、適切な手法を選ぶ必要がありますが、ワークの状態の影響を強く受ける場合があるため、測定対象に対して、装置組み込み前に事前データ検証を行う方が良いと考えられます。

高精度なレーザ変位計ならSmart LPS 1D

本記事で解説したように、レーザ変位計にはワークによって繰り返し再現性が大きく変わるという特徴があるため、注意が必要です。高精度な測定を実現するためには、導入前に精度や繰り返し再現性を検証しておくことが重要です。

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またSmart LPS 1Dは、レーザ光を用いて測定対象に非接触で測定ができるため、測定対象を傷つける心配がなく安心です。複数箇所の測定をする場合でも、変位測定にかかる時間を大幅に短縮できるというメリットもあります。

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